社労士が見た“ありがちな労務トラブル”事例と対策

社労士(社会保険労務士)の視点から見た「ありがちな労務トラブル」には、実際に多くの企業が直面するリスクや問題があります。以下は、典型的な事例とそれに対する対策を紹介します。

1.残業代未払い問題

■ 事例

従業員に「みなし残業代」を支給しているが、実際の残業時間がそれを超えても追加支給していない。
または、残業申請制としているが、申請がなければ残業代を支払わない運用。

■ トラブル

従業員から未払い残業代の請求 → 過去2年分(または3年分)さかのぼって請求され、高額に。

■ 対策

  • みなし残業制度の運用実態を確認し、超過分は必ず支給。
  • 労働時間管理(タイムカード・勤怠システム)を厳格に。
  • 管理職でも残業代が必要な場合があるため、「名ばかり管理職」に注意。

2.ハラスメント(パワハラ・セクハラ)対応の不備

■ 事例

上司の叱責が常態化しており、部下が心身に不調を来す。社内に相談窓口があるが、形だけで機能していない。

■ トラブル

退職後に労働局や弁護士に相談 → 損害賠償請求や労災申請へ発展。

■ 対策

  • ハラスメント防止規定の整備と周知。
  • 社内研修(特に管理職)を定期的に実施。
  • 第三者が相談対応する窓口の設置。

3.解雇・退職勧奨をめぐるトラブル

■ 事例

パフォーマンス不良の社員に対して、一方的な退職勧奨を行い、本人の同意なく退職届を書かせる。

■ トラブル

「不当解雇」として訴えられ、裁判沙汰に。場合によっては職場復帰と賠償請求。

■ 対策

  • 解雇の正当な理由・手続きの整備(労働契約法・判例ベース)。
  • 本人との面談記録や改善指導の記録を残す。
  • 弁護士・社労士の同席による退職面談。

4.有給休暇の取得義務違反

■ 事例

繁忙期に有給休暇を取らせていない、もしくは「申請されなければ取らせない」方針。

■ トラブル

労基署の調査で是正勧告。罰則対象となることも。

■ 対策

  • 年5日の有休取得義務を会社主導で計画的に運用。
  • 有給管理簿の整備と、取得状況の定期確認。

5.就業規則の未整備・未届出

■ 事例

従業員が10人を超えているのに就業規則を作成・届出していない。または内容が実態と乖離している。

■ トラブル

懲戒処分や退職金トラブル時に「就業規則がない」と主張され、対応困難に。

■ 対策

  • 従業員10人以上での就業規則作成・労基署への届出は義務。
  • 最新の法改正に対応した内容で定期的に見直し。

総括

「知らなかった」「慣例でやってきた」が最も危険なワードです。労務管理は法令に基づき、記録と運用の整合性が重要です。社労士はこうした労務トラブルを未然に防ぐ「企業の盾」のような存在。リスクを最小化するためにも、定期的な相談・監査をおすすめします。